酒名「桂月」は、明治、大正にかけて活躍した高知出身の文人、大町桂月(おおまちけいげつ)に由来している。美分韻文集「黄菊白菊」を始め、随筆、紀行文など多彩を極めた桂月は山河跋渉の旅を生涯愛し、また、こよなく酒を愛する人であった。いつも机の横には一生徳利を据えて執筆に励み、酒にまつわる詩も多く残している。
天真爛漫な桂月の人柄に心酔していた先代が自らの酒を「桂月」と名付け、その先代が酒造りに打ち込み、築いてきた味を変えること無く頑なに守り続けている。
その味は高知では珍しく、日本酒度でいうならば、プラス2というソフトな味わいのやや甘口、いや、うま口というべき味を貫いている。吟醸酒は、先代の頃より醸造はしてきたが、他蔵が地酒ブームに乗り吟醸に傾くのとは逆に、マイペースを決め込んで販売はしていなかった。しかし、現在では品質の目処も立ったということで少しずつ「桂月」の吟醸も販売している。これはファンにとっては杜氏のかくし酒を味わうような胸躍らせる酒であるに違いない。
現在まで「土佐酒造」はレギュラー酒、つまり一般清酒のみ、銘柄も「桂月」一本で生き抜いてきた。消費者も選択肢の増大にあわせて他業界と同じく商品の多様化に躍起になる今日において、酒屋としての本来の姿とでも言おうか、何とシンプルなことであろう。しかし、清酒一本でファンをつかみ、蔵を成り立たせるまでには、並々ならぬ陰の努力があったはずである。
●住所/高知県土佐郡土佐町田井4-8
●電話/0887-82-0504
●創業/明治10年
●主な出荷先/高知市・嶺北地方
●主な製造銘柄/桂月